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YOSHIMI NAGAO
in PARIS and LONDON
その土地の空気や匂い、そこで暮らす人々、そして季節の移ろい。
切り取られた街の物語に、それぞれの“旅するバッグ”がそっと寄り添う。
世界のどこかで過ごした、旅の記憶を綴るジャーナル『SOMEWHERE』。
第1回は、クリエイティブディレクター·長尾悦美さんが巡るヨーロッパの旅。
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春の気配をまといながら歩く、3月のパリ
バイヤーとして、そしてクリエイティブディレクターとして。年に4回、15年にわたりパリを訪れ続けてきた長尾さんにとって、この街は特別や憧れとは少し距離を置いた、日常の延長線上にある。
「毎回仕事で訪れているので、マインド的には東京にいるときと大きくは変わらないです。でも、ふと足を止めたときに目に飛び込んでくるパリの街は、やっぱり美しい。光の差し方や空の色、そこを歩く人たちの佇まいまで、すべてが絵になります」
滞在中は、アポイントを入れたショールームを巡り、商談を重ね、合間に新しいブランドやお店をリサーチする、その繰り返し。何を仕掛け、何を引き寄せるか。「出張はハンターの精神になっている」と、彼女はその様子を語る。
「仕事に限らず、日本にいても、“ものを探す”というのは私の人生のテーマ。息を吸うように、ものを探している。生き方そのものになっているから苦ではないし、むしろ心に響くものを見つける瞬間が、いちばん楽しい」
そう真っ直ぐな眼差しで答える長尾さんの言葉の端々に、根っからのバイヤー気質がにじむ。まだ知らない新たなものと出会うため、旅先ではどこへ行き、どんなものを見ているのだろう。
「いわゆる観光地ではなく、その土地に暮らす人たちが足を運ぶような場所に惹かれます。レストランもお店も、できるだけローカルな空気が感じられるところに行きたい。ディレクションされてきれいに並べられているものよりも、ファッションとして打ち出されていないところで見つけるモードなアイテムだったり、民芸品だったり。まだ誰の手にもすくい上げられていないものが雑多に並ぶ中から、自分の目と感覚で選び取り、その点と点をつなげて、線にしていくストーリーが好きなんです」



写真上)何気ない日常の光景も絵になるパリ。
写真中)ヴァンヴ蚤の市で見つけた小さな宝物。
写真下)動物好きな長尾さんの#dogstagram
日々多くの“もの”に触れながら、身にまとう一つひとつにも確かな審美眼が宿る長尾さん。今回のパリ出張では、7日間でLサイズのスーツケースひとつ分のワードローブを持参したという。
「商談や打ち合わせに対応できるよう、少しきれいめで、ファッションウィークも意識したスタイリングを中心にパッキングしました。3月のパリはまだ寒さも残るけれど、気分としては春めいた感じにしたくて。色合わせや素材感で軽やかさを楽しみつつ、寒くなったときのためにカシミヤのニットやストールも持ちました。ボトムスはデニム2本とハーフパンツ1本の3本をはき回しましたが、旅行中にまったく同じコーディネートはしなかったですね」
限られた荷物の中でも、その時々のムードを大切にするところに長尾さんらしさがある。そんな彼女が旅のお供に選んだバッグは、横長のフォルムが印象的なトートバッグ、LAND(ランド)。底部分にあしらわれたピンクのペイズリーが、色や柄を大胆にミックスする彼女のスタイリングに、さりげなくリズムを添えている。
「このバッグは、スタイリングを引き締める見た目の良さがありつつ、ちゃんと働いてくれるところが好きですね。個人的には、買ったものをガバッと入れられるし、フロントのポケットはGR(デジカメ)を入れるのにちょうどいい。荷物が重くなってきたときも、短めのハンドルだと持ち替えやすい」



写真上)旅の必需品が収まる、頼もしい収納力。
写真中)商談や街歩きもLANDとともに。
写真下)スタイリングのアクセントになるベルトなどの小物も、旅には必須。
旅の相棒、グローブ·トロッターとデジカメ
パリ出張の合間には、アポイントのため1泊だけロンドンへ。いつもは大きなスーツケース2つを持って出張に出かける長尾さんだが、今回はパリ~ロンドン間の移動をできるだけ身軽にするため、キャリーオンのスーツケースも持参したという。
「ロンドンのショップでグローブ·トロッターのキャリーオンに買い替えたので、帰りはスペースの空いたXLサイズのスーツケースに、日本から持ってきたキャリーオンをマトリョーシカのように収めました(笑)。トロッターは、どんな旅先でも置いてあるだけで映えるし、フォトジェニック。3年かけて、XL、L、キャリーオンと3つのサイズを揃えました」
道具にもまた、その人の旅の美学が表れる。グローブ·トロッターは長尾さんにとってトラベルケースでありながら、旅の風景のひとつなのだ。1年半ぶりに訪れたロンドンは、わずか1.5日の短い滞在。それでも、人々の着こなしや街の小さな変化が、確かな刺激となったそう。
「久しぶりのエリアだったので、とにかく歩いて、ロンドンの“今”をキャッチアップしてきた感じです。旅先で目にした色彩や感じた空気は、インスピレーション源になることも多いから、あとで見返せるカメラは必需品。iPhoneで撮ることもありますが、GRのフィルターを通すと、日常の1コマを切り取るだけでも可愛く見えるし、奥行きも出る。記録というより、クリエーションのような感覚で撮っています」



写真上)朝早い出発だったロンドンへは帽子をかぶって。
写真中)ロンドンの街に映えるグローブ·トロッター。
写真下)ロンドンを歩く人の可愛さも刺激に。
旅は、長尾さんにとって大切なインプットの時間でもある。「いい旅だった」と感じるのはどんなときか。そう尋ねると、少し笑いながら、彼女らしい答えが返ってきた。
「食と買い物が充実したとき(笑)。やっぱり旅では美味しいものを食べたいよね。でも出張中は、自分のコンディションを整えることも仕事のうちだから、毎日重たいものばかりというわけにはいかなくて。現地に住んでいる友達が教えてくれる“今行くべき店”に1回か2回行けたら、それだけでも旅は満たされます」
美味しいものを囲み、心が動くものを探す。そうした時間の積み重ねが、長尾さんの感性を少しずつ更新していく。公私ともに世界中を飛び回り、毎月どこかしら旅しているという彼女に、「あなたにとって旅とは?」という質問を最後に投げかけてみた。
「旅は運気を上げるもの。そのタイミングで、自分がそこへ向かうことに意味がある気がしていて。だから、行った先で出会う人や景色、かけられた言葉まで、そのすべてが自分にとって必要なもので、その後の流れをつくっていくのだと思う」
海外では、装いや佇まい、その人らしさに対して、思ったことをまっすぐ言葉にしてくれる人が多い。そんな率直なコミュニケーションに触れることもまた、彼女にとって旅の大きな喜びだ。
「『きれいだね』『おしゃれだね』『素敵だね』というポジティブな言葉を、まるで植物に水をやるようにかけられながら旅をしていたら、運気が上がらないわけがない。自分の在り方やパーソナリティに対してリアクションをしてもらえるから自信もつくし、そういう文化や価値観に触れると、私自身も心が開かれていく。笑顔とオープンマインドがあれば、旅はずっと楽しい」
TEXT : Ayako Takahashi