AYAKA FUKIAGE
IN TAIPEI


その土地の空気や匂い、そこで暮らす人々、そして季節の移ろい。切り取られた街の物語に、それぞれの旅するバッグがそっと寄り添う。世界のどこかで過ごした、旅の記憶を綴るジャーナル『SOMEWHERE』。
3回は、ア ヴァケーションデザイナーの吹上肖さんが歩いた、食とカルチャーが交差する台北へ。

 

新旧が混ざり合う、台北の街を歩く

吹上さんにとって、旅はクリエイションのインスピレーション源。
定期的に海外を訪れ、さまざまな国のカルチャーや人々の暮らしに直に触れる時間を大切にしている。


写真)台北101に近い光復市場で人気がある、中華まんの専門店。

「友達に『行かなーい?』と誘われて、『いいよー』と即答。旅慣れた者同士らしい、そんな軽やかなやり取りでした。23日の弾丸旅でしたが、台北を訪れるのは10年ぶりだったので、街を歩くだけでも新鮮で。日本に来た海外の人が土地の匂いが残る街に惹かれるように、台北にも下町のような情緒と都会的な空気が混ざり合うおもしろさがあるんです。その雑多な街のエネルギーとミックスされた感じがすごく魅力的でした」

写真)台北で最も古い問屋街、迪化街。

台湾のなかでも屈指のグルメタウンとして、食いしん坊たちを魅了し続ける台北。「帰ってきたら、びっくりするくらい体重が増えていて」と、彼女は笑う。
 「旅の印象を大きく変えるのは、食だなといつも思うんです。どこの国に行っても、おいしいと思える瞬間があると、それだけですごくいい思い出になる。台北のいいところは、一つひとつのポーションが小さいから、少しずついろんな味を楽しめること。アメリカやヨーロッパだと、1プレートでどんと出てくることが多いじゃないですか。シェアする楽しさももちろんありますが、台北では食べ歩きしながら、いくつものお店を巡れる。その気軽さも好きですね」

 


写真上)台湾の定番おやつ「蔥抓餅」。
写真中)ベジタリアン中華まん「素食包子」を朝食に。
写真下)その場で皮をむき、食べやすく切ってくれる市場のマンゴー。

食べて、歩いて、また食べて。台北の味を楽しみながら、目が向くのは市場に並ぶカラフルな色や柄。セレクトショップのバイヤーとして多くのものを見てきた吹上さんが、現地でどんな買い物を楽しんだのかも気になるところ。

「中国と台湾は違うけれど、どこかチャイニーズなムードを感じるものって、やっぱり惹かれますよね。今回買ったのは、靴やかごなど、台湾の暮らしに古くから寄り添ってきたアイテムたち。今は世界中のものがどこにいても買える時代だけど、その場で見つけて、その場で買うことに意味やおもしろさがあると思うんです」


写真上)刺繍入りのチャイナシューズ「繡花鞋」。
写真中)台湾の暮らしに根づいてきたナイロン製のかごバッグ「茄芷袋」。
写真下)鄭惠中先生による台湾の日常の装い。

旅の目的は人それぞれ。けれど、どこへ行き、何を見たかだけでなく、その土地で何に心が動いたのか。そこに、その人らしい旅のあり方が表れるのかもしれない。
 
「現地の文化をちゃんと感じたいんです。だから私は朝から晩まで外に出て、街に触れていたい。食もなるべく、その土地ならではのものを選びたいと思っています。ごはん屋さんも、街の人に聞いた方がおいしいお店に出会えることが多い。ものも情報も、今はなんでもネットで調べられるけれど、それだけだと少し寂しい気がして。現地の人と触れ合えたら、いい旅だったなと思えます」


写真上)
白菜の酢漬けを使った「酸菜白肉鍋」は台湾で人気の鍋料理。
写真下)タピオカ、紅茶ゼリーをトッピングした豆花。

非日常の余白をしのばせる旅支度


吹上さんが訪れた
5月の台湾は、日中は30近くまで気温が上がる初夏の陽気。彼女は、どんなアイテムをスーツケースに詰めたのだろう。
「台湾は暑くて湿気もすごいと聞いていたので、動きやすくて乾きやすいものを中心に、気候や街の雰囲気に合う装いを意識しました。旅では歩き回るのでスニーカーを持っていくことが多いのですが、さすがに台湾は暑いかなと思って、今回はサンダルに。あとは帽子と、室内が寒いときのためにシャツも持って行きました」
身軽さや快適さを基本にしつつも、夜にホテルのラウンジへ立ち寄るような、非日常の時間が訪れるかもしれない。そんな余白を残しておくのも、彼女らしい旅支度だ。
 「結局着ないことも多いのですが、予備の靴やきれいめな服を1セット持っていくようにしています。旅先ではふと、少し特別な場所に行ってみたくなることもある。A VACATIONも、非日常の旅のお供にという思いを込めているブランドなので、それはもともと私自身の旅のマインドにもつながっているのかもしれません。せっかく行くなら、そういう時間を楽しむ気持ちも持っていたいですね」


写真上)初日はタンクトップとデニムのシンプルコーデ。
写真中)2日目はTシャツにイッセイミヤケのプリーツパンツを。
写真下)最終日はキャミソールとスカート。
旅には、自身が手掛けたバッグも連れて行ったという吹上さん。ブランドのアイコンモデルであるTANKと、2026年春夏の新作KITだ。


写真)RIMOWAのスーツケースにA VACATIONのバッグを掛けて。
KITは、今回初めて旅先で使ってみました。旅のときは、いつも以上に荷物に気を配りながら歩くので、自分の体の一部みたいに持てるバッグがいいなと思っていたんです。このサイズはマチがあって、食べ歩きする台北では必須のウェットティッシュなどもきちんと入りました。ファスナー付きで、両手が空くのも便利です。A VACATIONでは大きめのバッグを作ることも多く、私自身も普段から大きいバッグを持つのが好きなので、こういう小さなサイズはこれまであまり作ってこなかったんです。でも今回作ってみて、旅にはこのサイズがすごくちょうどいいなと思いました」 
仕事で世界中を飛び回り、プライベートでも旅を楽しんできた吹上さん。そんな彼女に、旅をより楽しむために大切なことを尋ねた。


写真上)
帰路に向かう空港での夜ご飯用に台湾おにぎり。
写真下)空港のラウンジで出会ったミニアイスキャンディー。
「旅のときは、好奇心旺盛でいたほうがいい。国や地域が変われば、文化も暮らし方も違う。日本の中でも北海道と九州では違いがあるように、それぞれの土地に根づいた感覚がありますよね。ときにはカルチャーショックを受けることもあるけれど、そういう違いやハプニングも楽しめたらいい。世界には本当にいろいろな場所があるんだと感じられるし、帰ってくると、自分が暮らしている日本の良さにも改めて気づくんです。そうすると、日々の暮らしや社会のことも、もっと自分ごととして考えたいと思う。旅は、自分がどう在りたいかを見つめ直す時間でもあるのかもしれません」


吹上
ユナイテッドアローズのアクセサリーバイヤーとして世界中を飛び回った経験を生かし、2018年秋冬にバッグブランド「A VACATION」をスタート。旅をインスピレーション源に、日常にも非日常にも寄り添うバッグを提案している。ブランド名には旅のおともにというメッセージを込め、ファッションの一部として自由に楽しめるデザインと、使い勝手を兼ね備えたコレクションを展開。