SEAL KIM
IN SINGAPORE

その土地の空気や匂い、そこで暮らす人々、そして季節の移ろい。切り取られた街の物語に、それぞれの“旅するバッグ”がそっと寄り添う。世界のどこかで過ごした、旅の記憶を綴るジャーナル『SOMEWHERE』。
4回は、PRディレクターの金セアルさんが、プライベートで訪れたシンガポール34日の旅。

偶然が連れて行く街で、好きの輪郭を深める

多文化が混じり合う都市国家、シンガポール。その行き先は、夫が持つマイルで行ける範囲の中から、偶然選ばれた。
「今回の旅は、行き先も日程も取れたところへ行くというスタイル。だから、旅の目的は後付けなんですけど、建築を見たり、買い物をしたり、おいしいものを食べたりしました。シンガポールには、乗り継ぎで1泊したことはありましたが、街中を歩くのは今回が初めて。ゴミ1つ落ちていなくて、本当にきれい。日本以外で暮らすならここがいいかも、と思いました」

写真上)異国情緒あふれるアラブ・ストリート。
写真下)色とりどりの建物が並ぶカトン地区。

旅の予定で最初に決めるのは、食事。レストランだけは日本から予約しておくという。旅の満足度を左右する“食”にしっかりとプライオリティを置き、それ以外はゆるく自由に。その余白の残し方にも、旅慣れたセアルさんらしさが表れている。
「旅の中で一度は、ファインダイニングを楽しみたいんです。今回はナショナル・ギャラリー・シンガポール内にある三つ星フレンチ『Odette(オデット)』へ行きました。一方で、せっかくならその土地ならではの食べ物も楽しみたい。シンガポールチキンライスやラクサなど、ローカルフードもしっかり味わいました」


写真上・中)繊細で美しいプレゼンテーションが印象的な、オデットの料理。
写真下)シンガポールチキンライスの名店、チャターボックス。


新旧の建築が語る、その街らしさ

大好きな建築は、コロニアル様式の歴史ある建物から、近未来的な超高層ビルまで、新旧の両方を巡った。異なる時代や文化を肌で感じることもまた、セアルさんにとって旅の醍醐味だ。
 「シンガポールには、ものすごく古い建物が多いわけではないけれど、イギリス植民地時代の面影を残すコロニアル建築が街中に点在していて。なかでも、ラッフルズ・ホテルやナショナル・ギャラリー・シンガポールの優雅な建築は、今回の旅で特に印象に残っています」



写真上)優美な佇まいにため息がこぼれる、ラッフルズ・ホテル。
写真中・下)歴史ある旧最高裁判所と旧市庁舎を改修して作られた、ナショナル・ギャラリー・シンガポール。

独創的な形状と圧倒的なスケール感を持つ現代建築もまた、セアルさんを魅了した。

「マリーナベイ・サンズは、イスラエル系カナダ人建築家、モシェ・サフディの設計。ホテルはもちろん、隣接するショッピングモールも巨大な吹き抜け空間で、地下まで自然光が届き、その明るさにも驚かされました。さらに、徒歩圏内にあるガーデンズ・バイ・ザ・ベイへ。ライトアップされたスーパーツリーの幻想的な景色を楽しみました

写真上)巨大な船を載せたような独創的な形状が目を惹く、マリーナベイ・サンズ。
写真中)ダイナミックな吹き抜け構造が圧巻のマリーナベイ・サンズの内観。
写真下)ガーデンズ・バイ・ザ・ベイの象徴、スーパーツリー。

 
“旅服”があるから、異国でも自分らしく装える


その土地の空気を纏うように、装いを楽しむのも彼女らしい旅のスタイル。
 
「普段から『これは旅先で着たいな』という視点で服を選ぶことがあって、クローゼットの一角に“旅服”をまとめています。シンガポールは、いうても都会なので、モード感も意識しながら、スタイリングを日本で決めていきました」
とはいえ、今回は荷物を最小限に抑える必要があった。
「今回、夫から『2人で1つのスーツケースで行こう』と言われまして(笑)。服は着回せるようにモノトーンをベースに揃え、個性のある小物でアクセントを効かせる着こなしを考えました。バッグも現地で見ると、どこかシノワズリを思わせる柄に見えて、シンガポールの街にしっくりとなじんでいた気がします」


写真上)今回の旅のお供は、さらりと肩掛けできるワンショルダー「TOMBO(トンボ)」。
写真中)旅靴は2足。赤のローファーは歩き疲れたときに踵が踏めるパブーシュ仕様。
写真下)グラフィカルなデザインのオニキスのピアスも着こなしのアクセントに。

旅先で服を買うのも、楽しみのひとつ。今回は、現地で暮らす友人とチャイニーズを食べに行く予定に合わせて、モダンなチャイナシャツを購入した。

「振り返ると、私は旅先で服を買うことが多いかもしれません。展示会で服をオーダーすることはありますが、それ以外で買い物をすることはあまりなくて。旅で選んだ服には、そのときの記憶まで残る気がするんです。『あの旅で買った服だ』と思い出せるからこそ、より大切にできるのかもしれません」


写真)今回の旅で購入したチャイナシャツを着て、レストランへ。

旅は苦労を買うもの。だから、記憶に残る

そして、セアルさんが旅のバッグにいつも忍ばせているのが、シルクのアイマスク。心地よく眠ることは、旅を存分に楽しむための秘訣でもある。
「夫はカーテンを開けたまま、自然光で目覚めたいタイプなんですが、私は絶対に目覚めたくない(笑)。旅では、睡眠が本当に大事。寝不足だと楽しめないし、パフォーマンスも落ちてしまうので。友人との旅にも必ず持っていきます
旅を楽しむために、しっかりと準備するものがある一方で、あえて予定どおりにはいかない出来事も楽しむ。それもまた、彼女が大切にする旅のあり方だ。
「以前行ったクリス-ウェブ佳子さんのトークショーで、『旅は苦労を買うもの』という言葉を聞いて、それがずっと心に残っているんです。それまで、旅はただ楽しむもの、ワクワクするものと思っていたけど、それからは、行ったことのない場所へ足を運んだり、少しだけ知らないことに挑戦したりするようになりました」

写真上・下)シンガポールのトレンドが集まる複合施設、ニューバルにも足を運ぶ。

マイルに導かれ、偶然たどり着いたシンガポール。初めて歩く街で、思いがけない出来事も待っていた。
「市場のような場所で食事をしたんですが、現金を持っていないことに、あとから気づいて。カードが使えると思い込んでいたので焦りましたが、その場でALIPAYをダウンロードして、なんとか支払うことができました」
旅先で直面するトラブルもまた、一つの経験だ。
「困難というほどではない小さな出来事ですが、自分で解決できると自信になる。大人になってからでも成功体験を積めると思ったんです。それに、帰ってから誰かに話したくなるのは、意外と大変だった出来事のほう。だから、少々のトラブルは欲しい(笑)。それが旅の記憶をより深くするんじゃないかなって、私は思うんです」
金セアル
同志社女子大学卒業後、雑誌『CLASSY.』などで約10年間にわたりライターとして活動。現在はSNSPRやマーケティングを手がけるSEALBANK Communications INC.の代表取締役CEOを務める。東京と大阪を拠点に、ファッションやインテリア、プロダクトなど、多岐にわたる分野で活躍しながら国内外を旅し、ハイエンドなホテルやレストラン、その土地ならではの高感度なスポットを発信。洗練された審美眼と独自のスタイルに、多くの支持が集まる。
Instagram :  @sealbank

 

TEXT AYAKO TAKAHASHI